大判例

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東京地方裁判所 昭和25年(ワ)7066号・昭25年(ワ)7065号 判決

原告 日本セメント株式会社

被告 鹿目甚記 外一名

一、主  文

被告鹿目甚記は原告に対し東京都江東区深川清澄町一丁目八番地所在一、木造セメント瓦葺二階建一棟建坪二百五十三坪一棟(日本セメント株式会社清和寮)の内階下表(玄関)から向つて右最奥の東側の六畳二間(第一号室)を明渡し、且昭和二十五年十月一日から右明渡済に至る迄一ケ月金九十六円の割合金員を支払うべし。

被告渡銀治は原告に対し右建物の内階下表(玄関)から正面突当りの室の向つて左隣の六畳二間(第五号室)を明渡し、且昭和二十五年十月一日から右明渡済に至る迄一ケ月金九十六円の割合の金員を支払うべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

この判決は原告が各被告に対し金三万円宛の担保を供すれば夫々仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二、三項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

原告はセメントの製造販売等を主たる営業目的とする資本金七億円の株式会社であり、被告等は元原告会社の従業員であつたが昭和二十四年六月二十二日に退職したものである。而して原告会社は能率の向上を計る旁ら従業員の厚生に資する目的を以て従業員に社宅を使用させて来たが、被告等に対しても被告鹿目には昭和二十三年九月十日から右社宅たる原告所有の主文第一項記載の建物の第一号室を、又被告渡には同年七月十日から同第五号室を使用させて来た。右社宅の貸借関係は前記の目的の下になされたものであるから従業員たる身分に随伴し、使用者がこの身分を保有する期間内だけ存続すべき特殊の使用貸借であり、従つて被告等の前記退職と同時に当然被告等の右使用貸借も終了した。然るに被告等はその後も右各室の明渡義務を履行せず、よつて原告に対し昭和二十五年十月一日以降夫々一ケ月に付相当賃料額たる金九十六円の割合の損害を蒙らせつつある。よつて原告は被告等に対し右使用貸借の終了を原因として夫々右使用室の明渡を求め、且右明渡済に至る迄の右損害金の支払を求める為本訴に及んだと陳述し、被告等の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告等の訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

原告主張事実中原告がその主張通りの営業目的及び資本金額の株式会社であり、被告等が元原告会社の従業員で、あつたところ昭和二十四年六月二十二日に退職したこと、被告鹿目が昭和二十三年九月十日から主文第一項記載の建物の第一号室を、又被告渡が同年七月十日から右建物の内の主文第二項記載の第五号室を各占有していること、右建物が原告の所有物であつて原告会社がその社宅として従業員に使用させて来たものであることは認めるけれども、右各室の貸借が使用者が従業員の身分を保有する間に限り存続すべき使用貸借であること、従つて被告の前記退職により終了したことは否認する。被告等は原告に賃料を支払つて右各室を占有使用しているのであるから右各室の貸借は賃貸借であり、従つて借家法第一条の二の適用を受け賃貸人たる原告は正当の事由に基く解約の申入をしたのでなければ之を終了させることはできない。而して被告等が退職したのは別段被告等の側に不都合な行為があつたとか又は被告等が他に就職したとかの為ではなくして専ら人員を整理するという原告会社の都合上やむなく退職を承諾させられたからであつて、被告等のような生計に余裕のない給料生活者であつて現下の高物価就職難の時代に於ける失職者に対し前記のような退職を理由として右社宅の明渡を求めることは不当であるのみならず、原告会社は前記人員整理の結果社宅使用の必要性もそれだけ減少したものと認むべきであつて、以上の事実関係に於て右賃貸借解約申入の正当の事由は全然存しないから、原告会社は被告等に対し前記社宅の明渡を求めるに由なきものである。尚又右退職に際し原告会社は被告等退職者に対し社宅の明渡を請求しない、二年内に優先採用する旨誓約した。従つて本件明渡請求は右契約に違反するものであつて失当であると述べた。<立証省略>

三、理  由

原告がセメントの製造販売等を主たる営業目的とする株式会社であつて、被告等が元原告会社の従業員であつたところ昭和二十四年六月二十二日に退職したこと、被告鹿目甚記が昭和二十三年九月十日から主文第一項記載の建物の第一号室を、又被告渡銀治が同年七月十日から右建物の内の主文第二項記載の第五号室を各占有していること、右建物が原告会社の所有物であつて原告会社がその社宅として従業員に使用させて来たものであることは当事者間に争のないところである。

よつて右社宅の貸借関係が原告主張通り使用貸借契約に基ずいたものであるか、それとも被告主張のように賃貸借契約に基ずいたものであるかこの点に付審案するに、成立に争のない甲第一、二号証と証人松原義孝の証言によれば、右社宅は原告会社がその従業員の能率増進及び厚生の一助として従業員に限り使用させていたものであり被告等は最初原告会社から前記社宅を借受けるに際し原告から立退を求められた場合には異議なく速かに明渡すべく、又別に定める社宅料を原告会社に納入すべき旨約したこと、右社宅料は原告が右建物の修繕等に必要な費用の一部に充てる為徴収したものであること、尚原告会社は社宅を使用する従業員の為電燈料、水道料及び雑費として相当の額の補助金を出捐して来たことを認め得べく、以上認定の事実に徴すれば右社宅料は社宅貸与の対価ではなく、右社宅の貸借は使用貸借であつて賃貸借ではないものと解するのを相当とし、本件にあらわれたすべての資料によつても以上の認定を動かすに足りない。従つて右社宅の貸借関係が賃貸借であることを前提とし借家法第一条の二の規定による正当の事由に基ずく解約の申入をしなければ之を終了させることができないものとする被告の主張は之を認容することを得ない。

而して前記の通り原告会社がその社宅を従業員に限り使用させて来たものであることその他右認定の各事実に徴すれば右使用貸借契約に於て契約当事者間に当事者たる従業員が従業員たる身分を保有する間を以て存続期間とする暗黙の契約がなされたものと認めるのが相当であり、この認定を覆えすに足る資料は存しない。然らば被告等が昭和二十四年六月二十二日退職したこと前記の通りであるから同日限り原告と被告等との間の前記使用貸借は終了したものであつて被告等は夫々その借受けた前記各室の返還として之を原告に明渡すべき義務あるに至つたものと言わなければならない。

尤も被告等はその退職に際し原告会社が被告等に対し社宅の明渡を請求しない旨誓約したと抗弁するけれども、本件に現われたすべての資料によつても右事実を認めるに足りないから右抗弁は之を認容することができない。

而して被告等が前記退職後も前記各室を夫々占有していることは当事者間に争のないところであるから、被告等は右明渡義務を履行しないことにより原告に対し右各室の相当賃料額に等しい損害を蒙らしめつつあるものと認むべく、右各室の相当賃料額が何れも一ケ月金九十六円であることは被告の明らかに争わないところであるから被告等は原告に対し夫々昭和二十五年十月一日以降各明渡済に至る迄一ケ月に付金九十六円の割合の右損害金を支払うべき義務あるものと言わなければならない。

然らば被告等に対し右明渡及び損害金の支払を求める原告の請求は全部正当であるから之を認容し、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項、第百九十六条第一項を各適用して主文の通り判決した。

(裁判官 高井常太郎)

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